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  E-prost出版 山川 靖樹





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第2節 労働憲章
1 労働条件の原則 (法1条)
重要度 ⚪︎⚫︎⚫︎


(1)労働基準法基本7原則と日本国憲法
Outline

□ わが国の労働法の特徴は、基本的な原則や権利が憲法において宣言されている

↓ 具体的には…

  労働基準法第1条~第7条を基本7原則(「労働憲章」という)と位置づけ、基本的人権の保障(憲法第11条)をより具体化して明示してある。

↓ それでは…

□ 「基本的人権」とはなにか?
人が生まれながらにして持っていて、誰からも(たとえ国家からも)侵されることのない権利のこと <絶対不可侵の権利

↓ 分類して比較すると…

自由権 奴隷的拘束及び苦役からの自由(18条)・思想及び良心の自由(19条)・信教の自由(20条)・職業選択の自由(22条)・財産権の不可侵(29条)等
*いずれも「公共の福祉」に反しない範囲で認められる。
社会権 法の下の平等(14条1項)・男女の平等(24条2項)・生存権(25条)・勤労の権利(27条)・労働基本権(28条)等(平等権はここに含む)
参政権 選挙権の保障(15条)・被選挙権(44条)・最高裁判事の国民審査権(79条)
憲法 労働基準法

第25条1項

第1条(労働条件の原則)

第28条

第2条(労働条件の決定)

第14条1項、
第19条、
第20条

第3条(均等待遇)

第24条2項

第4条(男女同一賃金の原則)

第18条

第5条(強制労働の禁止)

第29条

第6条(中間搾取の排除)

第15条、
第44条、
第79条

第7条(公民権行使の保障)

第22条、
第27条、
第28条

労働施策総合推進法・職業安定法・労働組合法等


参考条文
日本国憲法第25条第1項

 すべて国民は、健康で文化的最低限度の生活を営む権利を有する。

日本国憲法第27条

1)すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

2)賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

3)児童は、これを酷使してはならない。

(2)労働条件の原則 (法1条) 
条文

1)労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。 (平2択)(平27択)(平9記)(平19選)

2)この法律で定める労働条件の基準最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない(平2択)(平18択)(平25択)

ここをチェック

□ 「労働条件」とは、賃金労働時間、労働契約の終了、災害補償、寄宿舎等に関する条件を含む、労働者の職場における一切の待遇をいう。ただし、雇入れ(採用)は、労働条件に含まれていない(平2択)(平16択)(平25択)

□ 法1条は、労働保護法たる労働基準法の基本理念を宣明したものであって、本法各条の解釈にあたり基本観念として常に考慮されなければならない(昭22.9.13 発基17号)。 (平28択)

□ 「人たるに値する生活」とは、「健康で文化的」な生活を内容とするものである。具体的には、一般の社会通念によって決まるものであり、人たるに値する生活のなかには労働者本人だけでなく、その標準家族をも含めて考えるべきものである(昭22.9.13 発基17号)。 (平30択)

□ 「この基準を理由として」とは、労働基準法に規定があることが、その労働条件低下の決定的な理由となっている場合をいう。したがって、社会経済情勢の変動等他に決定的な理由があれば、本条に抵触するものではない(昭63.3.14 基発150号)。 (平12択)(令3択)

□ 「労働関係の当事者」とは、使用者及び労働者のほか、それぞれの団体である使用者団体と労働組合が含まれる。 (令4択)


ADCANCE

□ 本条は訓示的規定のため、罰則の定めはない。



2 労働条件の決定 (法2条)
重要度 ⚪︎⚫︎⚫︎


条文

1)労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。 (平25択)(平28択)(令5択)(平9記)(平19選)

2)労働者及び使用者は、労働協約*1、就業規則*2及び労働契約*3を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。 (平15択)(平21択)



ここをチェック

□*1 「労働協約」とは、労働組合と使用者又はその団体との間で労働条件等に関して合意した協定であり、書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印することにより、その効力を生ずることとなる。したがって、労働組合のある事業場において締結される労働条件に係る合意協定ということになる。

□*2 「就業規則」とは、労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的事項について使用者が定めた規則である。原則として、制定権は使用者側にある

□*3 「労働契約」とは、個々の労働者が使用者から対価を得て、当該使用者の下で自己の労働力の処分を委ねることを約する契約をいう。

□ 本条は訓示的規定のため、罰則の定めはない。 (平7択)(平13択)


◆ 労働関係全体の相関関係
労働基準法92条   労働基準法   強行法規
(根拠条文はなし)
       
               
                                 
就業規則 ◀︎             労働基準法92条   労働協約
                       
      労働基準法 13条        
                                   
    労働契約法12条         労働組合法16条    
                                   
労使協定                              
                               
使用者 ◀︎   労働契約   ▶︎ 労働者
   
労働基準法92条   労働基準法   強行法規 (根拠条文はなし)
       
               
                                 
就業規則 ◀︎             労働基準法92条   労働協約
                       
      労働基準法 13条        
                                   
    労働契約法12条         労働組合法16条    
                                   
労使協定                              
                               
使用者 ◀︎   労働契約   ▶︎ 労働者
   


参考条文
法令及び労働協約との関係 (法92条)

 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、また、行政官庁(所轄労働基準監督署長)は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。

就業規則違反の労働契約 (労働契約法12条)

 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

基準の効力 (労働組合法16条)

 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効とする。この場合において無効となった部分は、労働協約の基準の定めるところによる。


ちょっとアドバイス
(1)法律等が及ぶ「当然の効力」とは?

a)法令や規則等に定められた基準に達しない労働条件は原則として無効となることを強行的効力という。

b)この効力によって無効とされた部分に関し、その法令や規則等に定められた基準をそのまま当てはめること直律的効力という。

↓ そして…

「a)+b)」の効力を規範的効力という。

* 「規範的効力」とは、その内容を知っていると否とにかかわらず、また、その内容に同意していると否とにかかわらず、法律上当然に適用を受ける効力のこと。このことにより、労働者は、法令等の規範的効力によって、不利益な労働条件から守られることになる。


(2)労使協定と就業規則の関係

□ 労使協定の「性質」は、労働基準法において禁じられていることであっても、労使間の合意があれば免罰的効力が認められるというもので、労働環境下における社会的必要悪については許されるということ。

↓ ところが…

 労使協定の締結は、包括的な同意協定の締結であって、原則として、個々の労働者を直接的に拘束する(つまり、従わせる)効力までは認められていない。

↓ そこで…

□ 労働者を拘束する(つまり、命令に従わせる)効力は、別途「労働協約」、「就業規則」または「労働契約」のいずれかに定めておくこととなる。

↓ つまり…

 労使協定で妥結した内容について、会社が労働者に命令する(できる)旨規定しておく必要があるということ。

(3)労使協定の締結

□ 労使協定は、その適用の対象となる労働者の過半数の意思を問うものではなく、その事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意思を問うものである。したがって、その労働者側の締結当事者である「労働者の過半数を代表する者」は、労使協定の適用を受けることのない者(例えば、労使協定の有効期間中に出勤しない者、その協定による労務管理を受けない者等)を含めた労働者の過半数を代表する者でなければならない(平11.3.31 基発168号)。 (平13択)(平14択)

↓ 具体的には…

□ 労使協定における労働者側の締結当事者たる「労働者の過半数を代表する者」は、次のイ)、ロ)のいずれの要件も満たす者でなければならない(則6条の2第1項、平22.5.18 基発0518第1号)。 (平15択)(令5択)

イ) 法41条2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。 (平22択)

ロ)労使協定の締結当事者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向によって選出された者でないこと。 (平22択)

↓ なお…

□ 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない(罰則適用はなし)(則6条の2第3項)。 (平19択)




ADCANCE
◆ 労働協約と労使協定の比較
  労働協約 労使協定
締結
当事者
労働組合(少数組合も締結できる) 過半数労働組合又は過半数代表者
適用
対象
締結した労働組合の組合員のみ 事業場のすべての労働者
効力 民事上の拘束力が認められる 免罰的効力のみ認められる
◆ 行政通達の略称 <参考>
発基(事務次官による通達) 法律の制定や大改正の際に発出される厚生労働省労働基準局関係の事務次官通達
基発(局長による通達) 法律の制定や改正の際に厚生労働省労働基準局長が発出する通達
基収(局長による回答) 下位の行政機関からの質疑(問い合わせ照会)に応答する形で厚生労働省労働基準局長が発出する通達
基監発(課長による通達) 都道府県労働局単位での事務処理や運用上の留意点等を示した厚生労働省労働基準局監督課長が発出する通達

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労働基準法第9条にいう「事業」とは、経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものであって、場所的観念によって決定されるべきものではない。
(H26-01D)

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答え:×
法9条、平11.3.31基発168号
事業とは、一定の場所で相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいい、必ずしも経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではなく、主として「場所的な概念によって決定すべき」ものである。