3 均等待遇 (法3条)
重要度 ⚪︎⚫︎⚫︎


条文

 使用者は、労働者の国籍信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。 (平1択)(平11択)(平23択)(平25択)(平29択)(令5択)

ここをチェック

□ 「信条」とは、特定の宗教的又は政治的信念をいう。 (平24択)(令4択)

□ 「社会的身分」とは、生来(生まれながら)の身分をいう。

□ 「その他の労働条件」には、労働契約の終了、災害補償、寄宿舎等に関する条件も含まれるが、雇入れ(採用)は含まれていない(平30択)

□ 本条の趣旨は「差別的取扱をしてはならない」のであって、就業規則等に差別規定が設けられていたとしても、現実にその規定に基づいて差別が行われていなければ、違反となるものではない。ただし、当該就業規則等の規定は、無効とされる。

□ 何をもって有利とし、何をもって不利とするかは、一般の社会通念により判断し、また、労働者を有利に取扱っても不利に取扱っても差別的な取扱いとなる(平27択)(令3択)

□ ここにいう「国籍信条又は社会的身分」とは、限定的列挙であって、性別を理由とする差別的取扱いは禁止されていないが、法4条及び男女雇用機会均等法において抵触する可能性がある。 (平14択)(平19択)



判例チェック
◇採用の自由vs思想・信条の自由◇

a)憲法14条1項(法の下の平等)・同19条(思想及び良心の自由)は、私人相互の関係を直接規律するものではない

b)憲法22条(職業選択の自由)、同29条(財産権の不可侵)により、企業者には、原則として採用の自由が認められる。

c)「採用」は労働条件ではなく、したがって、採用差別は労働基準法3条違反とはいえない。

d)採用差別は、公序良俗(民90条)、不法行為(民709条)にも違反しない。

↓ 以上のことから…

 企業者は、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのため、その者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって雇入れそのものを制約する規定ではない(三菱樹脂事件・昭48.12.12 最高裁大判)。 (平9択)(平21択)(平28択)

4 男女同一賃金の原則(法4条)
重要度 ⚪︎⚪︎⚫︎



条文

 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱い*1をしてはならない。 (平20択)(平25択)


ここをチェック

□ 「女性であることを理由として」とは、労働者が女性であることのみを理由とすること、あるいは、社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者でないこと等を理由とすることをいう。したがって、労働者の職務、能率、技能等によって、賃金に個人的差異のあることは、本条の差別的取扱いではない(平9.9.25 基発648号)。 (令1択)

□ 「賃金」については、限定的列挙であり、また、賃金の額そのものについて差別的取扱いをすることだけでなく、賃金体系、賃金形態等について差別的取扱いをすることも含まれる

□*1 「差別的取扱い」には、女性であることを理由として、賃金について有利な取扱い(いわゆる「逆差別」)をする場合も含まれる(平9.9.25 基発648号)。 (平30択)

(例)労働者が結婚のため退職する場合、女性には男性に比べ2倍の退職手当を支給することが定められているとき等(その定めは労働基準法4条に反し無効であり、行政官庁は使用者にその変更を命ずることができる)。 (平5択)(平10択)(平12択)(平21択)


ちょっとアドバイス

賃金以外の労働条件(採用、配置、昇進、教育訓練等)についての差別的取扱いは、本条違反とはならないが、男女雇用機会均等法に抵触する可能性がある。 (平24択)(平27択)

職務、能率、技能、年齢、勤続年数等が同一である場合において、男性はすべて月給制、女性はすべて日給制とし、男性は労働日数の如何にかかわらず月の賃金が一定額であるのに対し、女性は労働日数の多寡によって賃金が男性の一定額と異なる場合は、本条違反となる(平9.9.25 基発648号)。

□ 就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定があっても、現実に男女差別待遇の事実がない場合には、その規定そのものは無効となるが、本条違反とはされない(平9.9.25 基発648号)。 (令4択)

5 強制労働の禁止 (法5条)
重要度 ⚪︎⚫︎⚫︎


条文

 使用者は、暴行脅迫監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない*1。(平1択)(平10択)(平20択)(平27択)(令4択)

ここをチェック
◆ 行政通達(昭63.3.14 基発150号)による用語解説
 「暴行」とは、刑法208条に規定する暴行であり、労働者の身体に対し不法な自然力を行使することをいい、殴る、蹴る、水を掛ける等は総て暴行であり、通常傷害を伴いやすいが、必ずしもその必要はなく、また、身体に疼痛を与えることも要しない
 「脅迫」とは、刑法222条に規定する脅迫であり、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人又は本人の親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、脅迫者自ら又は第三者の手によって害を加えるべきことを通告することをいうが、必ずしも積極的言動によって示す必要なく、暗示する程度でも足りる(令3択)
 「監禁」とは、刑法220条に規定する監禁であり、一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことによって、労働者の身体の自由を拘束することをいい、必ずしも物質的障害を以て手段とする必要はない。暴行、脅迫、欺罔などにより労働者を一定の場所に伴い来り、その身体を抑留し、後難を畏れて逃走できないようにすることはその例である。(令5択)
 「暴行」、「脅迫」、「監禁」以外の手段で「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」としては、長期労働契約(法14条)、労働契約不履行に関する賠償額予定契約(法16条)、前借金契約(法17条)、強制貯金(法18条)の如きものがあり、労働契約に基づく場合でも、労務の提供を要求するに当たり、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」を用いて労働を強制した場合には、本条違反となることはいうまでもなく、要はその手段の正当であるか不当であるかによって本条違反が決定されることになる。
 なお、就業規則に社会通念上認められる懲戒罰を規定する如きは、これに該当しないこと。
 「不当」とは、社会通念上是認し難い程度の手段の意であり、必ずしも不法なもののみに限られない。たとえ、合法的なものであっても不当なものとなることがある。 (令2択)

□*1 「労働者の意思に反して労働を強制する」とは、必ずしも労働者が現実に「労働」することを必要としない。使用者が労働者の意思を抑圧して労働することを強要したものであれば、本条違反にあたる(昭23.3.2 基発381号)。

□ 本条の適用については、労働を強制する使用者と強制される労働者との間に労働関係があることが前提となるが、必ずしも形式的な労働契約が成立していることを要求するものではなく、事実上労働関係が存在すると認められればよい。 (平13択)(平26択)(令1択)

6 中間搾取の排除 (法6条)
重要度 ⚪︎⚪︎⚫︎


条文

 何人も、法律に基いて許される場合の外、として他人の就業に介入して利益を得てはならない。 (平20択)(平23択)


ここをチェック

□ 「何人も」とは、違反行為の主体は「他人の就業に介入して利益を得る」第三者であって使用者に限定されるものではなく、また、個人、団体又は公人たると私人たるとを問わない(昭23.3.2 基発381号)。 (平28択)

□ 「法律に基いて許される場合」に該当するのは、職業安定法、船員職業安定法及び建設労働者雇用改善法の規定による場合である。

(例)有料職業紹介事業の許可を受けた者が、厚生労働省令で定める種類及び額の手数料又はあらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づく手数料を受け取る場合(職業安定法32条の3第1項)が該当する。 (平10択)

□ 「業として」とは、営利を目的として同種の行為を反復継続することをいう。1回の行為であっても、反復継続する意思があれば足り、主業としてなされると副業としてなされるとを問わない(昭23.3.2 基発381号)。 (平13択)(平29択)

□ 「利益」とは、手数料、報償金、金銭以外の財物等の名称を問わず、有形と無形とを問わない。また、使用者より利益を得る場合のみに限らず、労働者又は第三者より利益を得る場合も含む(昭23.3.2 基発381号)。 (令2択)

□ 法6条において禁止する行為について、他人の就業に介入して得る利益の帰属主体は、必ずしも当該行為者には限らない。したがって、法人の従業者が違反行為を計画し、かつ実行した場合においてその者が現実に利益を得ていない(当該法人が他人の就業に介入して利益を得た)場合であっても、法人の従業者たる行為者について法6条違反が成立する(昭34.2.16 基収8770号)。 (平26択)(令5択)


ちょっとアドバイス

□ 労働者派遣については、派遣元と労働者との間の労働契約関係及び派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが全体としてその労働者の労働関係となるものであり、したがって、派遣元による労働者派遣は、労働関係の外にある第三者が他人の労働関係に介入することとはならない(平11.3.31 基発168号)。 (平14択)

↓ したがって…



□ 労働者派遣は、その派遣が合法であると違法であるとを問わず、中間搾取には当たらない。 (平15択)


<中間搾取>
使用者   紹介者  
   
     
雇用 指揮命令 紹介手数料
    ▶︎ 労働者      
       
使用者   紹介者  
   
     
雇用 指揮命令 紹介手数料
    ▶︎ 労働者      
       
使用者   紹介者  
   
     
雇用 指揮命令 紹介手数料
    ▶︎ 労働者      
       
<派遣契約>
派遣元 ◀︎   ▶︎ 派遣先  
   
     
雇用   指揮命令
    ▶︎ 労働者 ◀︎    
       
派遣元 ◀︎   ▶︎ 派遣先  
   
     
雇用   指揮命令
    ▶︎ 労働者 ◀︎    
       
派遣元 ◀︎   ▶︎ 派遣先  
   
     
雇用   指揮命令
    ▶︎ 労働者 ◀︎    
       

7 公民権行使の保障(法7条)
重要度 ⚪︎⚫︎⚫︎


条文

 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り請求された時刻変更することができる。 (平1択)(平23択)(令3択)(平20選)


ここをチェック

□ 「公民」とは、国家又は公共団体の公務に参加する資格のある国民のことをいう。また、「公民としての権利」とは、公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する権利のことをいう(昭63.3.14 基発150号)。

□ 「拒んではならない」とは、拒むことを禁止していることから、使用者が拒んだだけで本条違反となる。なお、その拒否の結果、労働者が権利の行使又は公の職務の執行をすることができなかったか否かは問われない。


ちょっとアドバイス

□ 公民権の行使を労働時間外に行うべき旨を定めた就業規則等に基づいて、労働時間中に公民権の行使のための時間を請求したものを拒否すれば、本条違反となる(昭23.10.30 基発1575号)。(令2択)

□ 権利の行使又は公の職務の執行に要する時間について、有給とするか無給とするかは当事者間の取り決めによる(昭23.10.30 基発1575号)。 (平10択)(平24択)(平26択)(令1択)


ADCANCE
(1)公民としての権利
認められるもの 認められないもの

○ 選挙権・被選挙権

○ 最高裁判所裁判官の国民審査

○ 特別法の住民投票

○ 憲法改正の国民投票

○ 地方自治法による住民の直接請求

○ 選挙人名簿の登録の申出

○ 行政事件訴訟法による民衆訴訟 (平7択)

○ 他の立候補者のための選挙運動

○ 個人としての訴権の行使 (平12択)etc.

(2)公の職務
認められるもの 認められないもの

○ 衆議院議員その他の議員の職務

○ 労働委員会の委員の職務

○ 検察審査員の職務

○ 民事訴訟法上の証人の職務

○ 労働委員会の証人の職務

○ 選挙立会人の職務、裁判員の職務

○ 労働審判手続における労働審判員の職務 (平21択)

○ 法令に基づいて設置される審議会の委員の職務etc.

○ 予備自衛官の防衛招集又は訓練召集

○ 非常勤の消防団員の職務 (平14択)etc.



判例チェック
◇企業秩序vs公民権の行使◇

 懲戒解雇なるものは、普通解雇と異なり、譴責、減給、降職、出勤停止等とともに、企業秩序の義務違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰であると解するのが相当である。

↓ しかし…

 労働基準法7条が、特に、労働者に対し労働時間中における公民としての権利の行使及び公の職務の執行を保障していることにかんがみるときは、公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に附する旨の就業規則の条項は、労働基準法の趣旨に反し、無効のものと解すべきである。 (平23択)

↓ したがって…

 所論のごとく公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害するおそれのある場合においても、普通解雇に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは、許されないものといわなければならない(十和田観光電鉄事件・昭38.6.21 最高裁第2小)。 (平9択)(平16択)(平29択)

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労働基準法第3条は、すべての労働条件について差別待遇を禁止しているが、いかなる理由に基づくものもすべてこれを禁止しているわけではなく、同条で限定的に列挙している国籍、信条又は社会的身分を理由とする場合のみを禁じている。
(H25-05D)

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答え:〇
法3条
設問のとおりである。法3条は、使用者が、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をすることを禁止しており、対象となる労働条件に制約はないが、理由については限定列挙である。

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労働基準法第3条は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、労働条件について差別することを禁じているが、これは雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制限する規定ではないとするのが、最高裁判所の判例である。
(H28-01 ウ)

▶︎ 解答はクリック

答え:〇
法3条、三菱樹脂事件(昭48.12.12最高裁大)
設問のとおりである。この裁判における最大の争点は、憲法14条の「信条による差別の禁止」が、私人と私人の関係に及ぶかどうかという点であった。雇入れが労働条件に含まれるかどうかについては学説が割れているが、最高裁はこの判決の中では、労基法3条が禁止している差別は、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではないと言及している。

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労働基準法第4条は、賃金について、女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをすることを禁止しているが、賃金以外の労働条件についてはこれを禁止していない。
(H27-01C)

▶︎ 解答はクリック

答え:〇
法4条
設問のとおりである。法4条は賃金についてのみの差別的取扱いを禁じており、賃金以外の労働条件についての差別的取扱いについては、本条違反の問題を生じない。ただし、賃金以外の労働条件についての性別を理由とする差別的取扱いについては、男女雇用機会均等法違反となる場合がある。

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労働基準法第5条は、使用者は、労働者の意思に反して労働を強制してはならない旨を定めているが、このときの使用者と労働者との労働関係は、必ずしも形式的な労働契約により成立していることを要求するものではなく、事実上の労働関係が存在していると認められる場合であれば足りる。
(R01-03 イ)

▶︎ 解答はクリック

答え:〇
法5条
設問のとおりである。法5条は使用者が労働者に強制労働をさせることを禁止する。すなわち、労働を強制する使用者と強制される労働者の間に労働関係があることが前提となるが、その場合の労働関係は、必ずしも形式的な労働契約により成立していることを要求するものではなく、事実上労働関係が存在すると認められる場合であれば足りるとされている。

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労働基準法第6条は、法律によって許されている場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならないとしているが、「業として利益を得る」とは、営利を目的として、同種の行為を反覆継続することをいい、反覆継続して利益を得る意思があっても1回の行為では規制対象とならない。
(H29-05 ウ)

▶︎ 解答はクリック

答え:×
法6条、昭23.3.2基発381号
法6条の「業として利益を得る」とは、営利を目的として、同種の行為を反覆継続することをいう。したがって、「1回の行為」であっても、反覆継続して利益を得る意思があれば充分であり、それが主業であるか副業であるかを問わない。なお、「利益」とは、手数料、報償金、金銭以外の財物等、名称又は有形無形を問わず、使用者より利益を得る場合のみに限らず、労働者又は第三者より利益を得る場合をも含む。

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労働基準法第7条は、労働者が労働時間中に、裁判員等の公の職務を執行するための必要な時間を請求した場合に、使用者に、当該労働時間に対応する賃金支払を保障しつつ、それを承認することを義務づけている。
(H26-01C)

▶︎ 解答はクリック

答え:×
法7条、昭22.11.27基発399号
法7条の規定は給与に関しては何ら触れていない。したがって、「有給にするか無給にするか」は、当事者の自由であり、就業規則や労働契約の定めるところによることとなる。